地方経済と中小企業の将来性を考察

長野県長野市の有力産業と中小零細企業の現状と将来の発展性を統計データから考察

長野市は、長野県の県庁所在地で、1998年には冬季オリンピックが開催された国際的に有名な都市としても有名です。

善光寺には毎年延べ人数で600万人以上の観光客が訪れ、ここ数年で多くの周辺自治体を合併し、現在は人口38万人程度を誇る長野県内最大の自治体です。

県庁所在地であるがゆえに税収も多く、財政は比較的潤っていますが、長期的な目線でみれば少子高齢化の流れを止めることができているわけではありません。

元銀行員の手塚大輔氏
長野県最大の都市である長野市の人口、経済、財政の現状と問題点、将来における課題について分析を行っていきます。

人口

県外転出者により社会減

長野県内最大の人口を誇る長野市は、東京から新幹線で1時間30分程度と長野県の中でも東京への距離が非常に近い自治体です。そのため、若者を県外への流出が深刻です。

平成29年の転入者から転出者を控除した社会増減は△81人、平成28年は△229人、平成27年はプラス171人と増加しているものの、平成26年は△574人、平成25年には△28人と、全体としては、社会減に全く歯止めがかかっていません。

長野県内の中堅自治体である松本市や上田市などでは高齢化による自然減を社会増でまかなっているというのが全体のトレンドです。

しかし、長野市においては毎年1,000人以上減少する自然減での人口に加えて、社会減でも人口が減少していることが特徴的です。

人口24万人の長野県内第2位の松本市に大差をつけての1位である長野市は、人口現象という面では社会増減でもマイナスとなっており、今後は人口現象対策が急務になっていくと思われます。

高齢化率は全国並み

平成27年の長野市の年齢階層別の人口構成比は以下の通りです。
0歳〜14歳の年少人口:49,052人(13.2%)
15歳〜64歳の生産年齢人口:216,734人(58.3%)
65歳以上の高齢者人口:106,007人(28.5%)

日本全体でも高齢者の割合は28%程度ですので、少なくとも平成27年の段階では、長野市の人口構成は日本全国の平均と同じであると考えることができるでしょう。

長野県最大の都市というだけあって、山間部のように極端に少子高齢化が進んでいるというわけではありません。
しかし、少子化は深刻です。

上記統計の10年前である平成17年の長野市の年少人口は約56,000人となっています。

つまり、10年間で1万人近くも子供の人口が少なくなっていることがわかります。

さらに、平成17年の高齢者の人口は約85,000人ですが、たったの10年間で高齢者人口は2万人以上増加していることになります。
さらに、平成28年の55歳から64歳の高齢者予備群の人口は約23,000人です。

このうち、62歳〜64歳の人口は7,000人以上を占めているため、平成30年現在では、高齢者の人口は優に11万人を超えていることが想像されます。

人口の多い長野市の多くを占めているのは、高齢者から第2時ベビーブームの現在40代の世代となっています。

このため、今後は多くの高齢者を抱える都市になってしまう可能性が非常に高いのが長野県内最大の都市である長野市の抱える将来的な問題点と言えるでしょう。

中山間地域の課題

長野市は周辺の自治体の多くを合併して人口を増やした自治体です。中には市の中心部から車で1時間以上かかる山間部も長野市に属します。

そのような山間部ほど高齢化は非常に深刻になっているのです。

例えば、戸隠の高齢者人口は46%、鬼無里は56.7%、大岡は52.8%、信州新町は48.3%、中条は53.4%となっており、長野市中心部から離れれば離れるほど高齢者の割合が高くなっていってしまうのです。

一方、長野市中心部であるいわゆる長野地区と言われる場所に高齢者の割合は27.4%となっており、市内中心と中山間地域の高齢化の格差は非常に深刻です。

2040年には人口31万人に

長野市の発表によると、長野市の人口は2040年には約31万人まで減少すると見込まれています。

2040年の高齢者率は38%とされていますので、約12万人が高齢者となる大変な事態となってしまいます。

長野市は平成29年度から平成38年度までの長期的な取り組みを示した第5次長野市総合計画の中で人口減少に対して以下のような目標を掲げています。
目標
・2021年に人口368,000人
・出生率を1.65%(現在1.55)

具体的な施策は以下の5つを柱としています。
『子供を産み育てる』
『いつまでも健康にくらす』
『元気な体をつくる』
『仕事が生まれる』
『企業が育つ』

簡単に言えば、出産子育て支援を行い、健康なお年寄りを増やし、働き世代が定住できるように企業を活性化し育てるという取り組みを行うということです。

では、『子供を産み育てる』という取り組みでは具体策としてどのような政策が掲げられているのでしょうか?

政策は3つに分かれています。
政策1 少子化対策、切れ目ない子供・子育て支援
①若い世代に対する結婚支援(マリッジサポート課)
②妊娠・出産・子育てまでの切れ目ない情報提供と相談
③仕事と子育ての両立
④地域ぐるみの子育て支援
⑤子育て中の家庭への経済的支援

政策2 子供の成長を育む環境の充実
①保育教育の質の向上
②幼稚園・保育所・認定こども園の連携強化、小学校との連携強化
③子供の健やかな成長を育む家庭環境づくりの支援

政策3 社会的援助を必要とする家庭等の自立支援
①生活・相談支援、保護者への相談強化、経済的支援の推進
②保護者のへの相談支援
③児童虐待の未然防止と早期発見早期対応

市役所の中に「マリッジサポート課」という部署があるのは驚きですが、おそらく政策の1番上に記載されていることからこの政策が目玉になっているものと思われます。

ちなみに平成30年では結婚支援事業に932万円の予算が計上されています。

また、母子家庭自立支援対策事業(母子家庭の母などの1人親家庭の親に、自立のための給付金を給付する事業)では、前年度から610万円増額し、5,000万円以上を計上しています。

また、女性が働くのが当たり前となった現在では、「仕事と子育ての両立」を行政がサポートするのは急務です。

また、仕事と子育ての両立では、「公立嘱託保育士等処遇改善事業」として前年度から5,000万円以上増額し、約7億1,000万円の予算を計上しています。

この事業は3歳未満児保育に対応するために保育士の賃金水準を引き上げるための予算となっています。

計画に基づき、ある程度の予算措置を長野市は講じていることがわかりますが、出生率の目標達成などのためには取り組みのボリュームではまだ足りなないと言わざるを得ません。

また、長期計画では、長野市においては人口目標が2021年までしか掲げられていません。本格的に人口減少が到来するのは2025年以降となっています。

この時期にどのような目標を掲げて、具体的にどのような取り組みを行って行くのかを示していないというのは、長期的なビジョンが欠けていると言わざるを得ません。

 

経済

長野市は長野県内の中で最も強い経済を持っています。

その理由として、人口が大きなことに加え、事業所の分布に特徴があるという点をあげることができます。

事業所数は減少しているが

長野市内の事業所数事態は減少しています。

平成21年の事業所数は21,049であるのに対して、平成26年の事業所数は19,872と1,000箇所以上減少しています。事業所数の減少は日本全国が抱える課題と言えます。

少子高齢化や後継者不足による廃業などによって今日本全国で事業所が減少しています。

また、県内他自治体の事業所の減少幅と比較すると長野市の減少幅である5.6%減少は大きなものではありません。

人口が長野市よりも10万人以上少ない松本市では、平成21年の事業所数は14,533ですが、平成26年には13,599と6.4%減少しており、松本市の方が減少幅は大きくなっています。

県内第3位の上田市は8.6%も減少していることを鑑みれば、長野市は日本全国のトレンドである事業所数の減少に一定の歯止めがかかっているということができるでしょう。

長野市は小規模事業所が多い

長野市は小規模事業所に勤務している人口が非常に多いことに大きな特徴があります。

長野市の事業所規模別の従業者数で従業者の数が最も多い上位3つの区分は以下のようになっています。
1位 従業員10人〜19人:30,367人
2位 従業員1人〜4人:25,003人
3位 従業員5人〜9人:24,303人

4位5位と従業員30人〜49人、50人〜99人が入りますので、長野市は従業員数の少ない小規模事業所が多くを占めているということがわかります。

では、大きな企業がないかと言えばそのようなことはなく、2017年の長野県内売上高ランキングのトップ20の企業のうち8社が長野市の企業が占めています。

ちなみに第2位の松本市の企業は3社しかありませんので、長野市が大企業と中小企業のバランスが取れた強い経済を持っているということが言えるでしょう。

老舗企業が多数を占める

長野市は老舗企業が強いという特徴もあります。平成26年の時点で、昭和59年以前に創業した事業所数は7,440と、全体の4割近くを占めています。

結論的に言えば、古くからある、家族経営に近いような小さな企業が堅調な経営を続けているのが長野市の特徴なのです。

それゆえに、若い働き世代の人が息苦しさを感じて、東京の大学に行ったまま帰ってこないという問題も生じているようにも感じます。

今後は、若い人が魅力を感じる創業支援に力を入れていくことで、長野市の経済はさらに強くなっていくのではないでしょうか?

 

農業

経営体数は少ない

長野市の平成27年の農家の経営体数は5,058となっています。

人口10万人程度の安曇野市の経営体数が3,214ですので、人口約38万人を抱える長野市の農家の経営体は非常に少ないということができます。

長野県内では珍しく、長野市は農業がどの家庭でも身近なものとは言えないようです。

ほとんどが果樹栽培

長野市の農業経営体数5,058のうち、約7割近くの3,482が果樹栽培となっています。これも、他の自治体にはない特徴ということができます。

他の自治体では主要品目である稲作を営んでいる経営体数は746しかありません。

確かに、長野市を車で走っていると、田んぼが全然ないというのが最初の感想です。ほとんどが果樹園となっているのです。

長野市は果樹の露地栽培が盛んな地域で、その中でもりんごと桃の栽培が盛んです。

農業従事者は8,748人となっており、そのうちの6,545人が65歳以上の高齢者が占めています。

実に75%を高齢者が占めていることになり、今後農業の分野において後継者の問題が顕在化してくるのではないでしょうか?

 

商業

小規模事業者が頑張っている

商業では、長野市の経済の特徴が非常によく現れています。長野市は大規模の小売や卸売だけに経済を依存していないのです。

例えば、小売で言えば、従業員40名以上の大規模店舗の売上は約761億円です。

小売全体に占める18%弱にしか満たない数字です。

他の自治体ではイオンなどの大規模スーパーが出店し、小売はその大規模店舗に引っ張られているという自治体が非常に多くなっています。

例えば、佐久市などは小売全体の売上の半分以上をイオンが占めており、イオンの売上減少とともに、佐久市全体の小売の売上が下がっているという実情があります。

しかし、長野市においては、事業所の平均従業員が10人以下の業種が占める売上は3,418億円を占め、全体の80%弱にのぼります。

小規模な事業所がしっかりと売上を確保でき、経済全体に寄与する割合が多いというのも長野市の経済が強い要因の1つと言えるでしょう。

面積面でも小規模店舗が多い

長野市は面積の面で見ても小規模の事業所が頑張っていることがわかります。

長野市の面積別の事業所数のトップ3は以下の通りになっています。
第1位 面積50〜100㎡:498
第2位 面積30〜50㎡:373
第3位 面積100〜200㎡:313

他の自治体であれば、シャッター商店街となっているような商店街にある小さな小売店が長野市においては元気に営業しているのです。

全ての産業が伸びている

長野市では平成25年から平成26年にかけて、ほぼ全ての産業で売上が伸びています。

減少しているのは、電子機器と輸送用機械とプラスチック製品くらいのもので、あとの業種は軒並み売上が上昇しています。

同じように、給料もほとんどの業種で支給額が伸びており、長野市においては企業が成長し、個人に還元され、そのお金が消費に回るという経済の好循環が一定程度できていることがよくわかります。

 

長野市の財政

財政は安定

長野市の平成28年度の歳入総額は約1,500億円となっています。

このうち、580億円が市税、つまり自主財源となっており、地方交付税が200億、国庫支出金も約200億円となっています。

市債発行額が145億円ですが、歳出で約139億円返済しているため、実質的には6億円程度の赤字となっています。

ただし、予算規模1,500億円のうちの6億円程度の赤字であればすぐに赤字は解消可能で、実質的に長野市は黒字経営をしていると言っても過言ではありません。

県内2位の松本市が歳入総額が約920億円で、市税が約350億円であることと比較すると、やはり県内最大の人口を誇り、多くの県内企業の本社を抱える長野市は、財政的に潤っているということがよくわかります。

市債残高は増加、基金は減少

歳入規模が大きな長野市は一般会計レベルではまずまずの黒字経営ですが、市の借金である市債の残高は増加しています。

平成26年の市債残高1,407億円から、平成28年には1,527億円へと増加しています。

これは長野市が平成25年に加藤市長に変わってから大型の公共事業を連発していることにも原因があります。

長野市の繁華街である権堂地区の再開発86億円、南長野運動公園にJ1仕様のスタジアム建設として80億円、市役所と芸術館の新築に161億円と、ここ数年だけで300億円以上の大型公共事業を連発しています。

一般会計レベルでは大きな赤字にはなっていませんが、今後はこれらの施設の維持費等が財政を圧迫していく可能性高く、何よりも借金を減少させていく施策も講じていく必要があります。

今後民生費は膨らんでいく

平成28年の長野市の歳出のうち、実に38%を占めるのが民生費です。実に510億円にものぼっています。

民生費は児童・高齢者福祉に当てられる費用です。

今後、人口減少対策、高齢化対策に予算がさらに必要になる中で、さらに民生費は膨らんでいくことが予想され、現に長野市は民生費の予算の拡充を図っています。

今は長野の財政は強い経済に支えられて堅調ですが、長野市においては財政的に苦しくなっていくのはこれからのことであると言えるかもしれません。

 

まとめ

長野県の県庁所在地である長野市は、人口はそれほど減少しているわけではありません。

高齢化率も全国平均並で、長野県内の中では低い水準と言えます。

どこの自治体も抱えている少子高齢化という現実がそれほどリアルではないというのが現在の長野市であると言えます。

しかし、確実に少子化は進んでおり、10年前から年少人口は1万人も減少しており、長野市自身も2040年には人口は31万人程度になると予測しています。

しかし、長期的な課題に向けて目標値がなく、将来的にどのような数値目標を掲げて人口現象対策を行っていくのかは非常に不透明であると言わざるを得ません。

しかし、市役所が1,000万円近い予算を計上した、結婚のあっせんや、保育所職員の処遇改善など他の自治体には見られない具体的な取り組みが行われていることは事実です。

今後はさらにボリュームの大きな少子化対策を長野県最大の都市として、長野県内を率先して行なっていくことが期待されます。

また、長野市においては社会減も多いという点は注視すべきです。県内2位と3位の松本市や上田市では、人口は確かに減少しています。

しかし、それは自然減が原因であって、転入してくる人口は増えており、自然減に対して社会減が一定程度歯止めをかけているのです。

長野市においては、移住促進と若者の定住促進を行っていかなければならないことは他の自治体と比較して急務であると言えるでしょう。

経済は、地方経済にありがちな、郊外型の大型店舗に頼った経済ではなく、家族経営の小規模な事業所が売上の多くを占める自力のある経済を持っています。ここが長野市最大の強みでしょう。

そのため、自主財源も県内2位の松本市に200億円以上の差をつけ、580億円以上と群を抜いています。

ただし、借金は増え、基金は減少しているという点に注意を払う必要があります。

長野市においては地方都市が抱える人口減少、経済の縮小という課題がまだ顕在化していない状況です。

本格的な少子高齢化の到来はこれからです。

今、健全な財政と、経済を最大限に生かして将来来るべき危機に備える施策を行うべきでしょう。

元銀行員の手塚大輔氏
あくまで執筆時の現状と考察になることをご理解ください。執筆は2018年7月です。

手塚大輔氏による▶長野県の他の各市の経済と有力産業の現状と将来の発展性の分析

資金繰ラウンジ編集長のこくもち(黒餅)
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